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東京地方裁判所 昭和56年(む)678号 決定 1981年8月07日

主文

東京高等裁判所が昭和五六年七月六日被請求人に対する火災びんの使用等の処罰に関する法律違反被告事件について言渡した刑(懲役一年六月、三年間執行猶予)の執行猶予の言渡しは、これを取消す。

理由

本件記録及び送付を受けた東京地方裁判所昭和五六年刑(わ)第四号確定事件記録によれば、

1  被請求人は、昭和五六年七月六日東京高等裁判所において、火災びんの使用等の処罰に関する法律違反の罪について懲役一年六月、三年間執行猶予に処する旨の判決の宣告を受け、この判決(以下(一)の判決という。)は上告提起期間の経過により、同月二一日確定したこと。

2  被請求人は、(一)の判決の宣告に先立つ同年六月二二日東京地方裁判所において、有印私文書偽造及び同行使の罪について懲役六月の実刑に処する旨の判決の宣告を受け、この判決(以下(二)の判決という。)に対しては、同月二三日原審弁護人による控訴の申立があつたが、(一)の判決の宣告後その確定前の同年七月一一日被告人から控訴取下書が提出されたことにより、(二)の判決は確定したこと。

3  被告人が(二)の判決について控訴の取下をしたことは、同年七月一五日東京地方裁判所裁判所書記官から東京地方検察庁検察官に通知されたが、(一)の判決に対し上告申立の権限を有する東京高等検察庁検察官において(二)の判決が確定した事実を覚知したのは、(一)の判決が確定したのちの同月二一日、東京地方検察庁検察事務官作成の同月二〇日付別事件裁判確定通知書の送付を受けたことによること、などが明らかである。

そうであれば、刑の執行猶予の言渡しを含む(一)の判決の確定前に、他の罪についての実刑判決である(二)の判決が確定していたことは、ともかくも、(一)の判決を上訴申立の方法によつて是正することができない時期に至つて、ようやく検察官に発覚したこととなるので、(一)の判決における刑の執行猶予の言渡しについては、刑法二六条三号所定の取消事由があるといわざるを得ない。

そこで、本件請求を認容することとし、刑事訴訟法三四九条の二第一項により、主文のとおり決定する。

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